札幌市長が、がれき受け入れ拒否の声明を出したとのこと。真摯な姿勢に共感した。
12/3/23【上田札幌市長】 東日本大震災により発生したがれきの受入れについて
東日本大震災から一年が過ぎました。地震と津波による死者・行方不明者が18,997人
という未曽有の大災害は、福島第一原子力発電所の大事故とともに、今なお人々の心
と生活に大きな影を落としています。改めて被災者の皆さま方に心からお見舞い申し
上げ、亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。
震災から一年後となる、今年の3月11日前後、テレビの画面に繰り返し映し出された
のは、膨大ながれきの山と、その前に呆然と立ちすくむ被災者の姿でした。これを視
聴した多くの人々の心には、「何とか自分達の町でもこのがれき処理を引き受けて早
期処理に協力できないか」という、同胞としての優しい思いと共感が生まれたものと
思います。
政府は、岩手県・宮城県の震災がれき約2,045万トンのうち、20%に相当する約401万
トンを被災地以外の広域で処理するという方針を出し、今、その受入れの是非に関す
る各自治体の判断が、連日のように新聞紙上等をにぎわせています。
私は、これまで、「放射性物質が付着しないがれきについては、当然のことながら受
け入れに協力をする。しかし、放射性物質で汚染され安全性を確認できないがれきに
ついては、受入れはできない。」と、市長としての考えを述べさせていただきまし
た。
『放射性廃棄物は、基本的には拡散させない』ことが原則というべきで、不幸にして
汚染された場合には、なるべくその近くに抑え込み、国の責任において、市民の生活
環境に放射性物質が漏れ出ないよう、集中的かつ長期間の管理を継続することが必要
であると私は考えています。非常時であっても、国民の健康と生活環境そして日本の
未来を守り、国内外からの信頼を得るためには、その基本を守ることが重要だと思い
ます。
国は、震災がれきの80%を被災地内で処理し、残りの20%のがれきを広域で処理する
こととし、今後2年間での処理完了を目指しています。
これに対し、「現地に仮設処理施設を設置し精力的に焼却処理することで、全量がれ
き処理が可能であり、また輸送コストもかからず、被災地における雇用確保のために
も良い」という意見も、被災県から述べられ始めています。
また放射性物質についてですが、震災以前は「放射性セシウム濃度が、廃棄物1kgあ
たり100ベクレル以下であれば放射性物質として扱わなくてもよいレベル」だとされ
てきました。しかし現在では、「焼却後8,000ベクレル/kg以下であれば埋立て可能
な基準」だとされています。「この数値は果たして、安全性の確証が得られるのか」
というのが、多くの市民が抱く素朴な疑問です。全国、幾つかの自治体で、独自基準
を設けて引き受ける事例が報道され始めていますが、その独自基準についても本当に
安全なのか、科学的根拠を示すことはできてはいないようです。
低レベルの放射線被ばくによる健康被害は、人体の外部から放射線を浴びる場合だけ
ではなく、長期間にわたり放射性物質を管理する経過の中で、人体の内部に取り入れ
られる可能性のある内部被ばくをも想定しなければならないといわれています。
チェルノブイリで放射線障害を受けた子ども達の治療活動にあたった日本人医師(長
野県松本市長など)をはじめ、多くの学者がこの内部被ばくの深刻さを語っていま
す。放射性物質は核種によっても違いますが、概ね人間の寿命より、はるかに長い時
間放射能を持ち続けるという性質があります。そして誰にも「確定的に絶対安全だと
は言えない」というのが現状だと思います。
札幌市の各清掃工場では、一般ごみ焼却後の灰からの放射性物質の濃度は、不検出あ
るいは1キログラム当たり13~18ベクレルという極めて低い数値しか出ておりませ
ん。私たちの住む北海道は日本有数の食糧庫であり、これから先も日本中に安全でお
いしい食糧を供給し続けていかなくてはなりません。そしてそれが私たち道民にでき
る最大の貢献であり支援でもあると考えます。
私も昨年4月、被災地を視察してきました。目の前には灰色の荒涼たる街並みがどこ
までも続き、その爪痕は、あまりにも悲しく、そしてあまりにも辛い光景で、今も私
のまぶたに焼き付いています。
また私は、若い時に福島に1年半ほど生活していたことがあり、友人も沢山います。
福島は、桃やリンゴなどの優れた農作物で知られており、それらを丹精こめて生産さ
れている人々が、愛着のある家や畑から離れなければならない、その不条理と無念さ
に、私は今も胸を締めつけられるような思いでいます。
札幌市はこれまで、心やさしい市民の皆様方とともに、さまざまな支援を行ってまい
りました。今なお札幌では、1,400人を超える被災者を受け入れており、あるいは一
定期間子どもたちを招いて放射線から守る活動などにも積極的に取り組んできたとこ
ろです。そのほか、山元町への長期派遣をはじめとした、延べ1,077人に及ぶ被災地
への職員派遣、等々。今までも、そしてこれからも、札幌にできる最大限の支援を継
続していく決意に変わりはありません。
またこのところ、震災がれきの受け入れについて、電話やファクス、電子メールなど
で札幌市民はもとより、道内外の多くの方々から、賛同・批判それぞれの声をお寄せ
いただき、厳しい批判も多数拝見しています。ご意見をお寄せいただいた方々に感謝
を申し上げます。これらのご意見を踏まえ、何度も自問自答を繰り返しながら、私
は、「市長として判断する際に、最も大事にすべきこと、それは市民の健康と安全な
生活の場を保全することだ」という、いわば「原点」にたどり着きました。
私自身が不安を払拭できないでいるこの問題について、市民に受入れをお願いするこ
とはできません。
市民にとって「絶対に安全」であることが担保されるまで、引き続き慎重に検討して
いきたいと思っています。
2012年3月23日
札幌市長 上田文雄